歯の神経(根管・歯髄)って何?

歯髄

歯は饅頭と同じです。皮があって、アンコが入っているんです。
そのアンコが入っている部分を根管と呼びます。

そしてアンコの事を歯髄と言います。通常触ると飛びあがる程に痛いので”神経”と言います。しかし、神経組織のみでは無くて、細胞も血管もあるれっきとした体の一部の組織です。

また、このアンコ、つまり歯髄は加齢と共に容積が減る傾向があります。つまり皮の部分が厚くなるのです。それは、歯髄が象牙質を作り出すからです。そのため、若い人は虫歯になると痛みがでるのが高齢者よりも早いのです。

どんな時に根管治療が必要なの?

この歯髄は非常に大切なもので、できるならば健全な状態に保ちたいものです。ところが、虫歯を作ってしまい夜も寝られないような状態になりますと、細菌感染により歯髄は壊死、つまり腐ってしまいます。この状態になると根管治療と言う処置が必要になります。

その目安としては、夜中に歯が痛くて目が覚めたり、その歯で咬むと痛くて咬めない様な症状がある場合です。通常の組織の場合には、細菌感染を起こしても抗生物質を飲んでおけば治るものです。しかし歯髄の場合、根の先からの血管のみで循環がおこなわれていますので、多少の感染によっても歯髄が壊死してしまいます。この部分は体の中ではとても変わった部分とご理解いただければ良いと思います。

また、一度根管治療を行ったにもかかわらず、空洞等の存在によって、根の先に膿が溜まったりして痛みが出た場合に、再度の根管治療を行わなければならないケースもあります。何十年も前に根管治療を受けており、その後何ともなかった歯が痛み出した場合の多くは、根管治療の不備と言うより、歯根(歯の根)が折れた可能性が高いことがあります。また、根管治療の不備により、根の先に歯根嚢胞と言う骨が無くなってしまう様な症状もあり、大きさによっては何らかの処置が必要になる場合もあります。

しかし、現在では痛みが無ければある程度酷い虫歯でも出来る限り歯髄は保存、つまり神経はとらないようにしています。実際には、3ミックスを使用したり水酸化カルシウム製剤、ドックスベストセメントを使用して、虫歯である部分を硬化させる方法をとります。ただし、死んだ人間が生き返らない様に、完全に壊死をした歯髄にこの様な治療を行っても無意味なのは言うまでも有りません。ただ、歯髄の再生治療という新しい治療も行えるようになってきました。それは親知らずや乳歯の様な不要な歯から歯髄を採取し、それを培養したものを壊死してしまった歯髄を取り除いた空洞に注入し歯髄を再生させる治療です。当院では2022年春から行う準備を進めております。現在、厚生労働省に第二種再生医療計画の申請中です。この治療により特に注目されるのが、歯をぶつけて折ってしまった小学生の前歯の治療です。この小学生の時期ですと、前歯の根は完全に完成はしていません。よって歯髄(神経)を取ってしまうと、根の先の完成が困難になります。よって根の短い歯になってしまいます。また、根の治療も困難を極めますので、早期に失うケースが多かったのです。それが歯髄の再生ができるようになると、歯根の完成も望めるようになります。実際、中国で行われた治療では、実際に複数の症例で歯根の完成が報告されています。ただし、歯髄の培養のコストが高額である上に、化学実験に使うようなクリーンベンチでの細胞操作が必要になります。よって1本あたりの歯の治療としても最低でも60万円程度かかってしまいます。

根管治療とはどんな治療?

簡単に言うと、根の中の壊死物質を除去してその中を洗浄します。そして根の中から根の先の穴にピッタリとフタをして根の中に人工物を詰め込み歯を残す治療です。その後は土台を作って冠を被せる事が多いです。

このピッタリと根の先にフタをするためには、曲がった根管を削って詰めやすい形態にする必要が有るのです。

根を削って詰めやすい形態にするのは、文章にすると簡単ですが削る量は必要最低限が求められます。削り過ぎは歯の強度を落として、将来歯根破折を起こします。また、削り足りないと根の先にピッタリと蓋をする事が困難になり、根尖病変(根尖病巣)と言うものを根の先に作ってしまう場合があります。

これは、歯の根の先がぴったりと閉鎖されていない為に、根の先に細菌の住み家を形成してう事が原因です。この細菌が根の周囲の骨に悪さをするのです。この根尖病巣(根尖病変)については、レントゲンを見ればほぼ分かります。また、歯科用CTを撮影すればほぼ確実に診断が出来ます。

実際に、しっかりと根の先に蓋をした根管治療では、この根尖病変(根尖病巣)はほぼ生じません。

根管治療の治療順序(抜髄処置)

1.壊死歯髄の除去 先ず、虫歯になってしまった部分を削って腐ってしまった歯髄組織を露出させます。 薬剤を使って消毒等をしながら、腐ってしまった歯髄組織を除去します。この場合マイクロスコープを使わないと、壊死部分を取り残す可能性があります。
2.根の先を探す 歯の中にマチバリの様な器具を入れて、歯の中から根の先を探します。
歯は工業製品では無いので、根の先の孔が細くなっていたり根の先で根が曲がっている場合も多く、奥歯の場合は簡単に見つからない事が大多数です。顕微鏡を見ながら注意深く見つけます。歯の根の数は、前歯では1つ。奥歯は3~4本ですので、奥歯は前歯の3から4倍以上の手間がかかります。
3.根の拡大 歯髄を除去した空洞を器具(ファイルとかリーマーと言う手で使う器具から、電動で回転するファイル類)を使って拡大します。
4.根の中の洗浄 根管の中に、医療用次亜塩素酸等を周囲にこぼさないように入れて殺菌します。EDTAと言う溶液で、ミクロン単位の歯の削り屑も取ります。
5.根管充填 歯髄の中に、腐らないゴムの様なガッターパーチャ+セメントで根の先を緊密に充填します(根管充填)。 その際に最も重要なのは、根の先(根先孔)を塞ぐ事です。
6.支台築造 被せるための土台(コア)を作ります。前歯の様に、あまりにも健全な歯の部分が多かった場合は樹脂を詰めて終了する場合も有ります。
7.被せます 色々な素材を使って被せます。現在では金属を使うより、セラミックを使う方が再治療の確率は下がります。

ステップを細かく説明します。

根の先を探す

根の先を探す

先ずは、局所麻酔をします。そしてラバーダム防湿。(健康保険診療の場合は行わないこともございます)

マイクロスコープを覗きながら歯を削って、歯髄を露出させてから細菌感染により炎症を起こした歯髄を取り除きます。それからファイルと言う器具を根管に挿入して根の先を探します。

マイクロスコープを使っても、見えるのは入口だけですからあとは手探りです。

前歯の根は真っ直ぐが多いですが、奥歯は曲がっています。そのため、段差が付かないように注意深く根の中にファイルを進めて行って、根の先を発見します。

根の先を発見し根の長さを測定するのには、電気的根管長測定器という日本人が発明した測定器具を使いま。

なお、以前に根管治療を受けて有り、痛み等の不具合が出た場合に行うのが再根管治療です。この場合は、クラウン(冠)を外してから、金属で作ってある土台(コア)を外し、更に根の中に詰まっているガッターパーチャと言う天然樹脂を外す必要があります。この処置は非常に大変なのです。

根管形成

根管形成

歯を安定した状態で保つ為には、根っこの先にきっちりガッターバーチャを詰めこむ事です。ところが、歯髄が入っていた空洞の歯髄腔は細かったり蛇行している事が多いです。それをきっちり広げて詰めやすくする事を根管形成と言います。(左の図は模式図です。実際にはこんなに寸胴にはしません。)

ドリルの様な回転切削器具も用いますが、根の先1/3に関しては回転切削器具は使わないほうが良いです。根の先の孔(根尖孔)を必要以上に広げて、破壊しないためです。

この根管形成は、炎症を起こして壊死に近づいた歯髄組織を取り、出来る限り根管内を無菌状態にする処置です。ただ、実際には無菌状態にする事は出来ませんので、極力綺麗にするという意味です。無菌状態に出来ない代わりに、根の先にピッタリと蓋をする根管充填が非常に重要な意味を持ちます。

そして、この根管形成は根の先の孔(根尖孔)を緊密に充填する為に行います。しかし削りすぎている場合が非常に多いのです。歯の根はもともと根管と言うくらいですから、パイプの様な構造です。その内面をドリルで削っているのです。歯は食事の際には上方から1平方センチメートルに50キロ程度の荷重がかかります。又、寝ているときの歯ぎしりでは、酷い場合は300キロ程度がかかると言われています。よって、内面を削りすぎてしまうと強度が落ちて、歯の根が折れてしまうのです。現在では歯槽膿漏が減った代わりに、この歯根破折が非常に増えています。しっかりと根の先に充填をしようと思えば、ある程度の根管内を削る必要が有ります。その最小限に留める必要があるのです。

根管充填

きっちり拡大した歯髄があった場所(歯髄腔)に人工物を詰めこむことを言います。
詰める材料は、後で固まる流動性の有るゲル状のものと、固形物があります。主流は固形物で、なかでもガッターパーチャと言う物質が一般的です。これは粘りの有る物体で、熱やユーカリ油で軟化します。ここでは、これを用いた根管充填について説明します。以前はガッターパーチャ単独で充填するテクニックも有りましたが、現在はガッタパーチャにセメントをつけて充填するのが普通です。

根管充填には、詰め方により2つの方法があります。

根側方加圧充填(ラテラルコンデンセーション)

根側方加圧充填(ラテラルコンデンセーション)

1本の太いガッターバーチャで出来た細長い物(メインポイント)を詰めこんで、それを器具で横によせて、その隙間に細いガッターパーチャのポイント(アクセサリーポイント)を押しこんで行く方法。比較的簡単ですが、加圧とは言ってもそんなに圧力はかかりにくい為に根っこの先に緊密には充填されない場合が多いです。それを補う為に、セメントの様な物をつけて詰めます。

最大の欠点は、この側法加圧充填では根の先にピッタリと蓋をする事は、ほぼ困難です。根がまっすぐで、根の先の孔も円形をしている様な極稀な場合のみです。根にぴったりと蓋がされていないと、不快症状が長く続く場合も多いのです。

ですから、この様な方法が何十年も日本のスタンダードな治療方法になっているのか非常に疑問です。

垂直加圧根充 バーティカルコンデンセーション オピアンキャリア法

垂直加圧根充 バーティカルコンデンセーション オピアンキャリア法

日本人の故・大津晴弘先生が開発した方法です。

熱と薬剤で軟化したガッターバーチャポイントを分割して、少しずつ挿入して加圧して詰め足して行く方法です。この方法の最大の利点は、根の先端に充填剤材をきっちりと詰める事ができるのです。ただし何と言っても根管形成をばっちりと行なっておかないといけません。そして根管の形態も綺麗な曲線を描いた、スムーズな形態にする必要があります。成功率は非常に高い結果が得られます。

とても良い根管充填法ですが、オリジナルのオピアンキャリア法は根管内を削り過ぎる傾向があり、現在では廃れてしまった方法です。当院では、この根管形成を大幅に改良し、削り過ぎない様に改善をした方法を採用しております。(K.SRCT法)

根管治療後の不具合としては腫れや痛みの持続が有ります。その多くの原因は根管内が汚い、つまり感染物質が存在し、かつ根の先端の閉鎖状態が悪い場合が多いのです。つまり根管充填が良くない場合も多々見られます。

垂直加圧根充(Continuous wave condensation technique )

コンティニアウスウエーブ法(CWCT法)はラテラルとバーティカルの融合です。根管形成は、規格化されたドリル類を用い根管形成をします。規格化されたドリルで削って、そのドリルと同じ形態をしたガッターパーチャポイントをシーラー(セメント)と共に充填、加圧しさらにヒートプラガーと言う瞬間的に200度になる器具を根管内に挿入してガッタパーチャを暖め、連続的なウェーブを起こして根管内を緊密に充填する方法です。

米国の根管治療の専門医ではこの方法が主流です。

根管がもともと太い場合や、根尖孔と言う根の先が大きく広げられている場合は不向きな場合があります。その理由は、固まっているガッターパーチャを根管の中に入れてから軟化しますので、根の先から固形のガッターパーチャが突き抜けてしまいます。しかも後から、根管内に挿入したガッターパーチャを専用の器具で200度程度加熱しますので歯の周囲の組織への熱の影響も無視できないと考えています。また、根の先までニッケルチタンファイルと言う回転切削器具を使うために、不用意な力をかけるとデリケートな根の先を破壊しかねないので注意が必要です。

根管充填後のレントゲン

根管充填後のレントゲン

左写真は当院例。
赤矢印は当院の治療。根っこの先まで充填できています。
青矢印は他医院での治療。点線の部分が足りないです。

日本の保険診療の根管治療がかかえる問題点

先進国で、インプラント1本よりも根管治療が安い国は日本だけと言われています。
米国では大臼歯の根管治療は12万円~30万円程度と言われていますが、何と日本では約9千円程度です。日本人は器用ですが、いくらなんでもこれでは厳しいのです。そこで起こってくるのが、根管治療にまつわるトラブルです。

当院では、通常の保険診療の根管治療も行っておりますが、より精度を求めた自由診療の根管治療(スーパー根管治療)も行っております。スーパー根管治療はCTによる立体的な画像診断を行った後にマイクロスコープ、ラバーダムを用いて治療します。スーパー根管治療の詳細はこちら

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