インプラントが骨にくっつかない
硬い骨
通常は、インプラントを埋めると、下顎の場合は2~3ヶ月、上顎の場合は5~6ヶ月で骨と結合します。しかし、ごく稀(2%程度)に結合しない場合があります。原因は3つ程度。まず骨自体が余にも硬い場合です。なぜ硬いとまずいかと言いますと、インプラントが骨と結合するためには、糊となる血液を供給する血管が必要なのですが、その血管が少ないのです。ただこの場合は、事前にCT(レントゲン)を撮っておけば、そのCT値により骨の硬度はわかりますので、対処が可能です。この場合は、もし骨にくっつかなかった場合は、再度埋めますと(新しいインプラントを使用します)殆どの場合は結合します。
軟組織が骨の中にあった場合
根の先に”のう胞”が有った歯を抜いた場合に、ごく稀に骨の中にこの残留物が残っている場合が有るようです。この残留物は軟らかいので、軟組織と言います。この軟組織は、骨の組織より、成長速度が速いのが問題なのです。つまり、この様な軟組織が残っている骨にインプラントを埋めますと、インプラントの周りに成長速度の速い軟組織が取り巻いてしまって骨と結合しないのです。埋めてから3ヶ月程度経過してから、インプラントを回転させてみると、痛みも何もないのに、クルっと回るので判ります。頻度的には1%未満程度と思われます。インプラントを埋める前にCTレントゲンを撮っておいても軟組織があるかどうかは判りませんので、こうなってしまったら、新しいインプラントを使い埋めなおします。
骨の火傷
インプラントを埋める場合、生理食塩水で骨を冷却しながら行いますが、ドリルの回転数が速かったり、押し付けたりした場合に、骨の温度が上がってしまい火傷になってしまいます。実際には、骨の温度が42度を超えると骨の火傷を生じます。こうなりますと、骨は吸収されて、その部分に軟らかい組織が(炎症性肉芽組織)生じ、インプラント周囲から膿が出るようになったりします。こうなるまでの期間はインプラントを埋めてから2~3ヶ月程度で1年経ってから起るものではありません。又、レントゲンを撮ってみると、インプラントの周囲に骨が連続的に無くなっている状態がわかりますので、診断はつけやすいです。これは、圧倒的にインプラント初心者に見られる現象です。なぜならば、骨の硬さ等はドリルを伝わってくる振動で判るのですが、初心者には、その感覚はありません。又、骨は均一な物体ではないのです。ある所は硬く、ある所は軟らかいのが骨なのです。その様な骨を相手に火傷をさせない様にするのは、この手に伝わってくる熟練的な感覚が大事なのです。
感染(インプラント周囲炎)
私がインプラントを始めた20年前は、1にも2にも感染を防止せよと言われ、とにかく掃除しやすい形のインプラントの埋め方や冠の形が要求されていました。しかし、そこまでしなくても、臨床的にはそれほど問題が無い事がわかってきたので現在ではそれ程言われなくなりました。でも、不潔にしておくと、インプラントと歯の境目から、細菌が進入して骨の破壊等も考えられます。ですから、インプラントの周囲は常に綺麗にブラッシングをしておかなければなりません。又、インプラントと歯に相当する上部構造をセメントで留めてある場合、余剰のセメントをしっかり除去しておかないとこの様になる場合があります。
歯に相当する部分が欠ける
10年経過するうちにこれは避けて通れないかもしれません。通常の歯の場合、グッとかみ締めると少々痛いと思います。これが歯根膜のセンサー機能で、これ以上咬むと歯が壊れますと教えてくれているのです。しかし、インプラントにはこの歯根膜がないので、いくらでも咬めてしまうのです。よって歯に相当する部分に審美性を考慮してセラミックスや強化プラスチックを使用した場合には、欠けてしまう事があるのです。その場合に対処できるように、歯に相当する部分はもう一度外せる様な構造にしておくのが一般的です。
インプラントの反対側の歯がダメになる
インプラントを下顎に入れたなら、その反対側の上の歯がダメになる事もあります。健全な歯ならその様な事はありませんが、歯槽膿漏になって歯が動いていたり、根が折れそうになっている部分の反対側にインプラントを入れた場合に、今までチカラがかからなかったので何の症状も無かったのですが、チカラがかかるようになると症状が出ることもあります。この様な事を避ける為にも、口の中、全体の事を考えてインプラントの治療計画を立てると共に、インプラントを埋めた後の定期健診も大事と言えましょう。
インプラント自体がダメになる
無理な設計
本来なら、数を埋めなければならないところに、少ない本数しか埋めない場合。代表的なのは、オールオンフォー(All- on- 4)。これは歯の全く無い土手に、4本のインプラントを埋めて、その上に歯を乗っけてしまう方法です。一日で仮歯まで出来てしまうのでワンデーインプラントとも言われています。ダメな点は、インプラントの数が少ないのと、傾斜して埋める為にどうしてもインプラントや顎の骨に無理がかかる点や精密な技工(上の歯の部分の工作精度)が出来ないのが問題なのです。
実際にアメリカではかなり問題が起こってきていると聞きました。ここでは、名前は出しませんが、世界的に有名な某教授によると、一般的なインプラントの成功率は、95%以上なのに対して、これは71%。科学的な根拠も乏しいそうで「絶対にやるな!!」とおっしゃっていました。できれば、インプラントを埋める骨の幅等が十分なら1つの歯にの欠損に1つの歯が良い場合が多いです。ただし、前歯部はそうとも当てはまらない場合があります
荷重負担が大きいとき
インプラントの周囲に痛みを生じグラグラしてきて抜ける場合もあります。原因が不明な場合も多いですが、比較的に細いインプラントを使った場合、当然目に見えないタワミを生じ、インプラントの周囲に軟組織が入り込み骨との結合が失われて動いてくる場合です。インプラント周囲炎との違いは、骨の広範囲なる吸収が認められない事です。なお、インプラントの歯に相当する部分(上部構造)が動いてきても、痛みが無い場合は上部構造を留めているネジが緩んでいるだけの場合もあります。この場合はネジを絞めれば、上部構造の動きは無くなり再度噛めるようになります。
インプラント自体が折れる
インプラントの材質は純チタンかチタン合金でできている場合が多いです。非常に硬い金属なので直ぐに折れることはあり得ません。しかし、長年の使用においては、折れる事もあり得ます。金属疲労がおこるのだと思われます。インプラントが普及してきて20年程度。長年、炎症も起こさず噛めるインプラントがたくさん出てきた半面、今後、この様な破折症例も増えてくると予想されます。つまり半永久的な治療方法と考えるべきでは無いでしょう。折れてしまったインプラントは摘出をして、しばらく骨が治るのを待ってから新しインプラントを埋めることになります。なお、純チタン製のインプラントはチタン合金製のインプラントよりも物性は弱いです。当院で純チタン製のインプラントは現在では使わないようにしています。
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