どうやって骨をつくるのですか?
前は、インプラントは、充分な骨の厚さと幅が無ければ、埋められない物とされてきました。しかし、現在では色々な材料の開発や、テクニックの進歩により、その様な部分に応用できるようになってまいりました。
骨の厚みが無い場合や、骨の形が悪い場合
骨を作る事によりインプラントを埋められるようにする技術で、GBRと言います。 英語では、Guided Bone Regeneration と書き、簡単に言うと、骨が足りない部分に 骨になるような物質を入れる事により、骨を作る技術です。
具体的には、骨の足りない部分を切開して、他の部分から採集してきた自分の骨や、骨様物質や、人工の骨の骨補填材を置き、その上にコラーゲンや、化学合成された皮膜をのっけて粘膜を閉じる事により、骨を作る技術です。上手く行けば、6ヶ月程度で、骨が出来ます。ただ、切開した部分に、骨補填材を詰め込み、その上にビニールシートの様な皮膜を乗っけて粘膜を閉じますので、粘膜を伸ばす技術が上手くないと、粘膜同士をピッタリと合わせて縫いあわせることが出来ません。又、縫い合わせても、その部分に力がかかっていると、数日で縫合した部分が裂けて、皮膜が露出してしまうのです。そうなってしまうと、感染してしまったりして、充分な骨が出来ません。もともとこの技術は歯周病の治療のためにヨーロッパで開発された技術です。つまり白人を基に開発された技術なのです。彼らの場合は、粘膜は日本人の2倍は有ると言われ、粘膜を伸ばしやすいので、日本人よりはやりやすいようです。
それでは具体的な例をお見せします。
右上にインプラントを埋める予定です。
一見して、骨の幅はありそうに見えますが、実は骨は殆どありません。
あらかじめ、CTと言うレントゲンを撮ってあり、それに拠ると殆ど幅の無い骨で有ることが推察されておりました。
やはり粘膜を剥離して見ますと、馬の背と言いましょうか、剣と申しましょうか、どう転んでも、インプラントは埋められなさそうな骨でした。
タラコに見えますが、βTCPと言う物質をPRPと言う、自分の血小板を濃縮して混ぜたものを、骨の足りない部分に置きます。
人工骨の上に合成された膜(この場合はチタン強化ゴアテックス膜)を置き、粘膜同士を縫合します。膜の上には、薄いチタンの骨組みが見えます。これによって膜の形が保てるようにしてあります。
2015年現在、ゴアテックス膜は販売中止になってしまいましたので、サイトプラストTXT200を使用します
きっちりと縫合します。この際には、高度の縫合技術が要求されます。
:
半年後
:
粘膜を開いて、ゴアテックス膜を取り除きます。
膜を外すと、白く硬い骨様物質が出来上がっていました。この場合は、とても硬い骨様物質が出来ました。
粘膜が治癒するのを待って、インプラントを3本埋めました。インプラントを埋めるのには、充分な骨の量と硬さがありました。
インプラントに歯になる部分を結合させできあがりました。(1997年の症例ですが、現在なら歯肉の整形をします)
13年経過しましたが、全く問題無く咬むことに貢献しています。
骨の無い部分に詰め込む補填材には、色々な物があります。一番良いのは自分の骨である場合が多いです。しかし、自分の骨の場合、GBRをする場所以外から骨を採集しなければならないために、傷を2箇所作ってしまう欠点があります。それを回避するために、ご遺体から採集した骨を精製した物がメインで使われています。これは、後述の人工骨よりは文献的、臨床的に、骨を造成する能力は高く感染性はないとされています。米国では、整形外科領域で40年に渡って使用されておりますが、感染等の報告は一例もありません。又、米国の大学でのインプラントではこれらの補填材は盛んに使われています。しかし、日本では、厚生労働省の認可は取れておりませんので、歯科医師個人が輸入して自己責任で使っているのが実態です。
又、化学合成された人工骨補填材も有ります。、燐酸カルシウムや炭酸カルシウム、等の系列があり、それぞれ焼いて作る様ですが、その焼成温度によってもその性質はかなり異なるようです。これらの補填材は、生物由来の物よりも骨を作る力は弱く、一度出来ても長い間に吸収してしまう事もあります。
これらの、補填材の分野は、それほど歴史の有るものでは有りませんので、これからどんどん良いものが出てくると思われます。最近(2012年)では骨を作るタンパク質(BMP2)も米国では発売されています。このたんぱく質は、整形外科領域で脊椎の手術に用いられ始めましたが、非常に腫れる為に脊椎を圧迫してしまう事が問題になっているようです。 歯科領域でも使われていますが、やはり腫れるそうです。
最近、2012年にウシ由来のバイオスと言う骨補填材が日本の厚生労働省より認可されました。(まさか認可されるとは思いませんでした。)このバイオスは、300件以上の文献があり、安全とされ米国では非常に多く使われています。購入費用はなぜか、前述の人間由来の倍程度します。
そして2020年では、日本のメーカーが作った炭酸アパタイトを使う場合も増えてきました。しかしこの様な材料は非常に高価なのです。
記入1997.6.15
改変 2003.2.9
追補 2022.1.07
Comments are closed