口の中にも癌は出来ます。代表的なのは舌の癌で、歯肉に出来る癌も当然あります。又、組織の内部に出来る(非上皮性と言います)肉腫と言うものも、癌より頻度は低いですが有ります。
歯科医院でも、3年に1度位は、癌を思わせる病変にお目にかかりますが、心配して来院される方の殆どは癌では無いことが多いです。口の中の癌(口腔癌)は体の表面に出きているものが多く、実際に目で見る事が出来ますので、見て、触れば大体の見当はつきます。ここでは、癌が出来たと、あわてふためくものの、癌では無いパターンの代表例をご紹介します
健康な舌
これは、健康な舌です。でも舌の根元をみると結構ボコボコしていますので、ある日突然、鏡で舌をみたらその容に驚いて、癌だと思いこむ人が多い。神経質な人や、身内や知り合いが舌癌になった話を聞いて、自分の舌をみたら、へんてこりんなボコボコが有るので、びっくり仰天して、どこかの口腔外科や歯科に駆け込んでこられる事も多いようです。
舌の癌が出来るのは、舌の横と相場が決まっています。舌の上面にできる事は稀です。血相かえていらっしゃる方の多くは、舌の奥にある味をつかさどる器官の有郭乳頭や、だれにでもある舌扁桃の事が多いです。
ただし、口腔癌の4割は舌ガンです。日本では年間3千人から4千人罹患していますので、舌に何か”しこり”の様な物ができたり治りにくい傷が有る場合は、絶対に放置しないで口腔外科を受診するのが大事です。又、日ごろから歯科を受診する場合には舌の検診も受けておくことが重要です。後述しますが、タバコはガンの引き金を引く可能性がありますのでやめましょう。
舌に”しこり”が有る。放置してはなりません。
下顎隆起(かがくりゅうき)
通常の下顎隆起
こんな大きいのもあります。
今まで見た最大(邪魔じゃないそうです。)
これは、下顎隆起と言うただの骨の出っ張りです。下顎の歯の内側のドテの骨は出っ張って来る事がありまして、特に左右対称では無いことが多く、大きさもパチンコ玉のひとまわり小さくしたものや、山芋みたいな形をしたものまでよくみかけられます。こんな出っ張りが有ったら、気づきそうなものですが、意外に、ひょんな事から発見して、焦る人が多いらしく、恐る恐る、歯の治療の際に聞いてくる場合が多いです。当然、邪魔でなければ、このまま放置しておいて良いです。あまりに大きくて、舌の運動を阻害したり、歯が駄目になって、入歯にした際に、入歯の端がその骨の出っ張りに当たって痛い場合には、削る事も有ります。 何でこんな出っ張りが出来るかと言うと、咬む力が強い人の場合、歯を守るために骨を厚くしているとの説があります。
ただし、短期に大きさの変化が見られるものや押して痛いもの、表面が正常な粘膜の色をしていない場合は、骨肉腫の可能性もなくはないですので、口腔外科を受診する事をお勧めします。
尚、以下の場合は健康保険で取り除くことができます。
1、義歯の装着に際して、下顎隆起が著しい障害となるような場合
2、咀嚼又は発音に際して、下顎隆起が著しい障害となるような場合
義歯の場合は有り得ますが、咀嚼や発音に際して障害になる様な場合は稀です。なぜならば、急に出来るわけではないからです。
口蓋隆起(こうがいりゅうき)
上顎の口蓋と言う部分に存在する出っ張り。出っ張りの正体は骨です。気がついていない人も多いのが現状です。義歯を入れる際に邪魔になる場合があります。又、発音がしづらいと感じられる場合もあります。この様な場合は、健康保険を適応しての切除ができます。切除と言っても削り取ります。
柔らかい場合は口蓋隆起ではありませんので、口腔外科の受診をお勧めします。又、大きさが急激に変化する場合も要受診です。
粘液のう胞(ねんえきのうほう)
これは、粘液のう胞。唇に出来る事が多く、子供から大人までによくみられます。簡単に説明しますと、唇には小唾液腺と言うゴマ粒大の少量の唾液を生産する組織が粘膜の直下に有りまして、この出口に閉塞障害が起こりますと、この様にプクッと腫れた感じになります。
具体的には、唇を噛んだりした場合が多いです。痛みもなにも有りませんが。放置しておいても、半分位は自然消滅しますが、再発を繰り返す場合や、周囲に炎症でも起きて、硬くなった様な場合、癌が出来たと思いこむ人が多い様です。
当院の場合は、3カ月程度経過観察をしても自然消滅しない場合は、少しメスで切開して、ゴマ粒大の小唾液腺毎、摘出します。小唾液腺は、唇の下には、一杯有りますので、一個取ったところで、何の障害も起こりません。但し、摘出の際に運が悪いと、他の小唾液腺の閉塞障害を生じさせる事が有って、再発(再発と言うより、お隣の小唾液腺から新しく生じる)してしまう事も有ります。この写真の様に、表面がツルっとしていなく、ボコボコだったりした場合は、口腔外科で診てもらいましょう。
以上が、歯科医院で良く見られる、癌だと思って驚いてやってくる患者さんのパターンです。
次にお見せする映像は、注意を要する粘膜の変化です。
咬傷(こうしょう)
粘膜が白っぽくなって、やや硬い感じがありました。
一見して、前癌病変の一つの白板症じゃなかろうかと思ったのですが、患者さん曰く、しょっちゅうこうなって又、消える との事でしたので、1ヶ月、様子観察としましたら、不思議な事に、白い病変は何も無くなってしまいました。
結果的には、ただの、噛んだ傷だった様です。
一般的には、この様な物が口の中に生じて、痛みも無くて、拡大傾向が有る場合は、口腔外科で相談しましょう。
* 参考 * 扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)
上記は扁平上皮がんです。(当院初診) 明らかに異常な感じがしますね。
口の中に出来て、癌が疑われる場合のポイント
明らかに周囲より出っ張っている。
触っても痛みが無い。
粘膜の色が、白っぽい。または白かったり赤かったりする部分がある。
突然出来たものじゃないが、何だか大きくなっている傾向が有る。
できものの粘膜の表面がカリフラワーみたいに、ボコボコしている。
口の中に出来る腫瘍は圧倒的に良性腫瘍が多いです。口腔癌は全てのガンの中での頻度は1~2%程度と言われ、それほど多くはありません。ただし、日本では年間8千人程度が口腔癌になると言われ年々増加しています。
口腔癌は、胃がんや肺がんと違って、殆どの場合が直接見ることができます。
しかし、もし口腔癌だった場合、小さければ摘出するだけで終わりですが、大きい場合は顔の皮膚や骨の一部を切り取る必要があり、その後に再建と言って機能や外観を治さなければなくなりその方の生活を大きく変える事があります。
再建は胸の筋肉や、背中の筋肉、手の筋肉を使う事が多いので、お腹等のガンに比べて大きな手術になる場合が多く、形成外科と合同で手術をする場合もあります。
特に、某大学の先生によると見えるところに出来るのにかかわらず日本では2センチ以上の大きさになってから来院される方が8割だそうです。口腔癌は1センチと2センチ以上では手術の範囲、その後の機能の維持等に大きな違いが出ますので、もっと皆様が早く受診する必要があります。
口腔がんは出来るだけ早い発見と治療が必要。
<前癌病変> 癌じゃないけど、癌になる可能性の有る疾患。
口腔部分では、白板症と紅板症があります。
白板症 癌になる可能性は2~5%
粘膜が白っぽくなった状態。こすってもとれない。
中心部はやや硬いが、境界部が硬いのは良くない場合が多い。
赤い部分と白い部分の混在は良くない場合が多い。
ステロイドをぬっても効果なし。
症状により注意深い1か月毎の経過観察。それが出来ないなら切除が望ましい。
薄く剥がすオペなので、障害が出にくい。
細胞診や組織診が必要。
細胞診の場合境界をこすってこないと中心部では正確な診断が出にくい。
誘因は尖った歯、合わない義歯等の刺激がある。
タバコは特によくない。酒もあまりよくない。
紅板症 癌化する可能性は50~60%。
赤っぽいびらん性の病変。
最初から痛い赤いびらんはあまり問題ない。
1か月単位で変化してくる物はよくない。
細胞診や組織診で診断。
治療は、症状にもよるが、注意深い経過観察か切除。
扁平苔鮮等との鑑別が必要。
ブリンクマン指数 一日のタバコの本数かける喫煙年数が600を超えると危険。
一日20本×30年 で危険水域 肺がんは400だそうだ。
癌(がん)の診断
他のガンと違って、殆ど見えますのでパっと見れば大体の診断はつきます。
つまり痛い検査もなく受診したその日に、おおよその結果を聞ける事と言うことです。
診断を確定させるには、患部の組織を少し切り取って顕微鏡で細胞の形をみてもらう病理組織診断です。
ただ、癌の場合癌細胞にメスを入れると、その細胞が血液に乗って運ばれて他の組織に転移する可能性もなくはありません。そこで用いられるのが細胞診です。癌じゃないかと疑われる表面を歯ブラシの様な器具でなでるだけですみます。病理組織診断よりは精度は落ちますが、メスを入れませんので転移させる心配もございませんし、痛みも全くありません。
当院では明らかに癌を疑う患者さんの場合は、提携病院口腔外科を紹介しておりますが、境界領域の場合は、病理組織検査を実施いたします。尚、細胞診も行っております。細胞診に関しては、東京歯科大学千葉病院臨床検査部に検体を送って診断をしてもらいます。
がんに似た疾患として肉腫が有ります。同じ悪性腫瘍ですが、がんは粘膜等の表面にできるものを言うのに対して、肉腫は組織の内部に生じる(非上皮性)悪性腫瘍をそう呼びます。口腔領域では、顎の骨に出来る骨肉腫が代表例です。当然、骨の内部から発生しますので、ある程度腫れて気が付く場合と、歯科医院において撮影したレントゲンに偶然に映った陰影により発見される場合があります。この骨肉腫はがんよりは、転移の傾向が強いので、早期発見が大事です。
記入00/7/5
追補08/04/16
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